授業コード 84002600 クラス
科目名 子ども家庭支援論 単位数 2
担当者 中 みちる 履修期 前期授業
カリキュラム *下表参考 配当年次 *下表参考

授業題目 子どもを含む家族支援の理論と技法 Family Social Work Theory and Methods
授業の概要  この授業に興味関心をもつのは、将来子どもと家族に関わる仕事をしたいと考えている人や、子どもや家族の問題解決に役立つ実践的な方法が知りたい、身に着けたいと考えている人だと思います。子どもや子育て家庭が抱える諸問題は、コロナ禍以前より社会問題視されていましたが、コロナ禍の影響も加わり、よりその家庭ごとの事情を反映し複雑さを増しています。これだけ特殊な状況にあっては、既存の社会サービスによる支援や一般論や常識に基づく助言・提案を主とする相談対応では、子どもや家族の現実づくりを変えることができず、方法として限界があります。では、どうすればいいのか。現場でも模索が続いており、絶対的な方法が示せるわけではありませんが、使えた方がいいと認められてきているのが家族支援のための専門的なソーシャルワーク(包括的対人支援方法論)の視点と技量です。特に保育士は、子どもや家庭にとって最も身近な児童福祉施設である保育所の主たる従事者であり、助産施設を除くほぼすべての児童福祉施設に関与する専門職です。子どもや子育て家庭の支援において、重要で貴重な機会を担っていると言え、保育士に寄せる社会的な期待や要望は通常業務である子どものケアだけに留まらなくなっています。理論に基づく支援によって、その社会的期待に応えることは、目の前の子どもや家族の現状変容に役に立つだけでなく、保育士の専門性の向上と社会的評価の向上による待遇改善につながると考えます。この授業では、子どもを含む家族支援の実践的な理論と技法を学びます。実際の事例や現場の課題から理論と実践の整合性についても議論したいと考えています。
学習の到達目標 ファミリーソーシャルワークの基本的な理論と技法を学び、以下の習得を目指します。
・基本的な理論的枠組みとして、現象を家族間システムの相互作用過程として捉えることができる。
・基本的な相談手順を理解し、どのように相談を進めていけばいいかがわかる。
・基本的な支援技法として、トラッキングを始めとする質問法について、作用と使用方法を理解し、実践に活かすことができる。
・子どもとその家族の支援者として、コンプリメント、ワンダウンなど必要な姿勢を理解し、実践に活かすことができる。
・子ども、家族、他の支援者との協働作業を可能にするコミュニケーション・スキルを向上できる。
授業計画 第1回 オリエンテーション
 この授業についてシラバスを使って説明する。受講者の関心を聞きながら、支援方法について専門的な理論を学ぶ意義と必要性についてディスカッションしたいと考えている。
第2回 支援の基礎理論(1)システム論
 社会システム、家族システム、家族内サブシステム、二者間のコミュニケーションシステムと、状況を階層や要素に整理したり、システムの構造や力動性について分析したりと、システミックな視点や思考は家族支援には欠かせないものとなっている。具体例を示しながら、家族システムの構造や力動性、円環的認識論について解説する。
第3回 システム論を使った事例検討
 前回学んだシステム論を使って、実際の事例の分析を行う。家族について得られた情報をエコマップ、ジェノグラム、ファミリーマップに整理できるようになること、そこからどのようなことが考えられるか、情報を丁寧に読み込む思考力を身に着けることを目指す。
第4回 支援の基礎理論(2):コミュニケーション論
 文脈によってメッセージの意味が変わる語用論の観点から、人間のコミュニケーションの特徴を学ぶ。その特徴は家族間のコミュニケーションの分析の土台となるだけでなく、支援者と被支援者の支援関係にも当てはめられることから、支援関係づくりの重要性について理解を深める。
第5回 コミュニケーション論を使った事例検討
 前回学んだコミュニケーション論を使って、実際の事例の分析を行う。二者間のコミュニケーションの逐語録を読み、互いのメッセージの意味構成と行為選択がどのように相互に作用しているのか、そのメッセージの連結が問題とされる状況をどう組み立てているのか、考えられるようになることを目指す。
第6回 支援の基礎理論(3):問題生成論と解決生成論
 問題や解決をどのようなものとして捉えるかは、どのような支援をするかに関わる。この回では、これまでのシステム論と人間のコミュニケーションの特徴を踏まえ、日常生活場面からどのように問題が生成するのか、問題が問題となるメカニズムについて解説する。そこからどのように状況を変容させるのか、解決生成の糸口を学ぶ。
第7回 基礎理論の実際への応用
 相談場面の逐語録から、エコロジカルな状況の分析、家族内コミュニケーションの分析、問題維持パターンの仮説、解決生成に向けた介入プランの策定までを行いたいと考えている。最終的には、一人で行えるようになることを目指すが、この回ではグループで意見を出し合いながら、チームとして状況の分析をまとめ、介入プランを立てることからチャレンジしたいと考えている。
第8回 支援の展開方法:変容手順について
 問題を何とかしたいと思い、子どもなり家族なりが支援者に問題状況について話をし始めたら、支援者はその後どのように解決生成まで話を持って行くのか、何を問い、どのような段階を踏んでいけば、子どもや家族は解決行動のアイデアを自ら考え、行動プランを立案することができるのか。この回では支援の進め方について解説する。
第9回 支援の技法(1):トラッキング
 前回の変容手順の最初の段階に必要な技法、トラッキングについて学ぶ。非常に実用的で重要なスキルなので、しっかり習得できるようロールプレイ(役割練習)を行いたいと考えている。
第10回 トラッキングの練習
 話を聞く相手が、保護者なのか、子どもなのか、子どもなら何歳なのか、障害特性で考慮することはあるのか・ないのか、また何について話すのかなど、取り組む内容によってトラッキングの難易度は変わる。この回では、より実際に近い形でトラッキングを使ってみて、自分なりの工夫の仕方を見つけていきたいと考えている。
第11回 支援の技法(2):質問法
 相談場面では、支援者のメッセージに促される形で、保護者や子どもは話を進める。保護者や子どもが何をどう話すかは、支援者がどのようなメッセージを用いるかで大きく変わる。その点で質問法について学び、その効果を理解した上で、的確に使えるようになることは、支援者には必須要件と考える。ここでは、ナラティブアプローチと解決志向アプローチに基づいた質問法を中心に、各種の質問法について紹介する。
第12回 質問法の練習
 相談支援では支援者の質問が重要となる。家族システムの分析に基づき、家族内コミュニケーションのどの部分に働きかけるのか、支援者の意図、選択する質問法が課題となるだけでなく、どのようなメッセージで表出するのかも重要となる。得られたトラッキング・データを基に、どのポイントを差異化するために、どの質問法を用いるか、またどのような聞き方をするか、シナリオにより質問メッセージを組み立てたのち、ロールプレイをしたいと考えている。
第13回 介入後のリフレクション、フォローアップについて
 あまり強調されていないことであるが、相談支援を行った後、どうなったか、どうだったかを話してもらう機会を持つことは非常に効果的で重要である。ここでは、実践をふり返る際の留意点やフォローアップの方法について学び、ロールプレイでリフレクションを促すメッセージやリフレイムなどの方法を練習する。
第14回 同席面接、支援者会議、他機関連携での支援
 親子同席や両親面接といった複数人の相談を受ける際の留意点について解説する。また支援者会議や他機関連携の際に生じる課題や、他機関紹介の方法などについても紹介し、クレームや子どもや家族の不利益にならない連携の仕方について考える。
第15回 子ども家庭支援従事者に求められるものとは
 これまでの学習内容をふまえ、改めて子ども家庭支援の意義や必要性、従事者がどのような専門性を身に着ける必要があるか、一人ひとりの考える家族支援論についてディスカッションしたい。
授業外学習の課題 ・各回ごとに事前学習課題やレポート課題などを提示します。(学習時間の目安としては通常は30分~1時間程度を想定していますが、調べたり、考えたりするものは1時間以上かかるかと思います。難しいことがあれば相談してください。)
・子どもや家庭、家族に関連するニュースや、地域の支援機関など、興味関心を持ってください。気になったことや勉強になったことは、教えてください。情報交換して知識を広めましょう。
履修上の注意事項 ・第1回の授業で、確認事項について説明するので、出席するようにしてください。
・連続3回以上欠席した場合、欠席した授業の内容を補うために課題を出します。方法や内容は個別に説明を行います。
・「社会福祉論」を受講していると基礎理論の理解が容易になるかと思います。
・原則、対面授業を行います。非対面授業となった場合は、Moodleを使ったオンデマンド形式での授業を行う予定ですが、詳細は追って連絡します。
・子どもや家族を支援する専門職としての態度や姿勢を求めます。
・この授業では、実際的な家族支援論を中心とします。子育て支援制度や支援機関については「児童家庭福祉論」、子どもの福祉と社会状況との関連については「社会福祉論」で学ぶことができます。またこの授業で学習した内容は「社会的養護論」で児童福祉施設での支援を考える時にも役立ちます。
・授業では皆さんに問いかけ、考えてもらうことを意識しています。思っていることや考えていることを言語化するのは容易ではありませんが、授業を練習の場だと思って、意見を出してください。また、グループワークやディスカッションの際には、自分の言動が目の前の人の学習にも作用することを踏まえ、友好的・協力的なコミュニケーションを意識してください。
・授業中の私語など受講マナーについては、大学の規定に準拠します。
・欠席については、理由の有無、内容にかかわらず、6回以上欠席した学生は評価の対象にしません。
・遅刻、早退、欠席の報告・連絡・相談、課題の内容や提出日時に関する疑問や相談、学習に必要な配慮などは、自己判断せず、口頭またはメールなどで伝えてください。こちらも授業内容や方法の変更などはなるべく事前に連絡したり、相談したりするようにします。互いに信頼し合えるような行動をとっていきましょう。(メール:mnaka@alpha.shudo-u.ac.jp)
成績評価の方法・基準 成績は、平常点の評価と期末試験の評価により総合的に行います。

平常点の評価
・授業内の小レポート、リアクションペーパー(60%)
・授業内のグループワークで記入したワークシート(10%)
・予習課題や宿題などの課題レポート(30%)
・欠席での減点はありませんが、私語など授業マナー違反については減点の対象とします。
※評価のポイント
・提出期限を守れているか(連絡や相談なく提出期限を過ぎた課題は受け取りません。)
・設問に対応しているか
・講義内容の理解度、独創的な意見・感想、根拠のある適切な批判、着想の鋭い質問など、記述の内容

期末試験の評価(100%)
・試験前に試験範囲や持ち込み資料について説明します。
※評価のポイント
・問題の理解
・説明の根拠、説得力
・論理的な論述構成、授業内容の反映・応用の有無
・文章力(文章表現、誤字脱字など)
・資料の取り扱い(引用、参考の明示の仕方)
テキスト 必要に応じて紹介します。
参考文献 理論や実践事例について
・『ファミリー・ソーシャルワークの理論と技法 社会構成主義的観点から』大下由美・小川全夫・加茂陽編 九州大学出版会 2014年
・『人間コミュニケーションの語用論』P・ワツラウィック他 尾川丈一訳 二弊社 1998年
・『家族・関係者支援の実際』中野真也・吉川悟編 ナカニシヤ出版 2022年
・『家族療法の視点』中村伸一 金剛出版 1997年
・その他、システムズアプローチや家族療法に関連した書籍、ソーシャルワークを取り入れた保育実践を紹介している書籍など、授業の内容に応じて紹介します。
・子どもや子育て家庭を支援する社会資源については、内閣府や厚生労働省のホームページ、または広島市や広島県の子育て支援サイトなどから情報をえることができます。
主な関連科目 社会福祉論
児童家庭福祉論
社会的養護論
オフィスアワー及び
質問・相談への対応
・授業時間の前後に教室で対応します。ただ、毎回十分な時間が必ず取れるとは限らないので、事前にメール(mnaka@alpha.shudo-u.ac.jp)でお知らせいただいたり、相談の上、日時を調整させていただけると助かります。
・リアクションペーパー、課題のフィードバックは、対面では返却時に、非対面ではMoodleのフィードバックで行います。
・リアクションペーパーに書かれた質問には、次回の授業の冒頭で回答するか、内容に応じて個別に回答いたします。

■カリキュラム情報
所属 ナンバリングコード 適用入学年度 配当年次
人文学部教育学科(資格関連科目) 2019~2023 3・4