授業コード 63000501 クラス 01
科目名 心理学概論Ⅰ 単位数 2
担当者 中西 大輔 履修期 前期授業
カリキュラム *下表参考 配当年次 *下表参考

授業題目 心理学入門
授業の概要 「心理学」とは人間行動に関する科学であるとされている。心理学は「心理」学ではあるものの、そこで扱われているのは「行動」である。行動というのは外から観察可能なものを全て含んでいる。したがって今担当者がシラバスを書いているというのも行動だし、このシラバスを読むというのも行動である。広義には脳波や脈拍も行動 (behaviour) である。外から観察可能な行動から、人間の振る舞いについて一定の法則を見出すのが心理学という学問である。これは広義には「行動主義 (behaviourism)」と言われているが、当然測定可能な対象が増えれば、扱う内容も増える。問題は「測定」可能なものが心理学の研究対象であるということである。そういう意味で、主流派の心理学は実証科学である。心理学的な視点から この講義では心理学史、学習心理学、知覚心理学、認知心理学、性格心理学、社会心理学、発達心理学、進化心理学、臨床心理学、心理学研究法といった広範な領域について、行動を軸にこれまで明らかにされたことを紹介することによって心理学の導入としたい。
学習の到達目標 心理学の各分野の概要が理解でき、心理学が扱う内容と扱わない内容について説明することができる。なお、詳細な履修判定指標 (最終試験において何が問われるか) はMoodleで公開されるコマシラバスの末尾に掲載してある。
授業計画 第1回 心理学とは何か? (心理学論)
「心理学とは何か?」について概観する。特に心理学の伝統的な考え方について学び、通俗的に知られている心理学と「本当の」心理学の共通点や差異について知ることを目的とする。心理学に限らずあらゆる学問は初学者を「裏切る」が、心理学はどのような意味で初学者を「裏切る」のかを解説する。その中で、統計的データと個人のデータをどのように考えたらよいかを学んだ上で、心理学の主流の考え方が機能主義であるという点について解説し、機能主義の基本的な考え方を紹介する。他の学問と同様に、「そもそも」心とはなんなのかを考えるところに心理学の特徴があることを解説し、心から現象を説明することの無意味さについて考える。現代的心理学について学ぶにあたり、構成概念について知ることは重要である。心的構成概念についての考え方を学ぶことで、心理学者が目に見えないこころをどのように具体的な研究対象としてきたのかを学習し、心理学の守備範囲について、科学的心理学と応用型の心理学あることを紹介した上で説明する。
第2回 心理学はいかに研究されてきたか? (心理学史)
心理学が現在の形となったのはワトソンの行動主義宣言 (1913年) 以降であると言える。もちろん、1879年にヴントがライプツィヒ大学で正式に心理学の実験室を運用しはじめてからというのがボーリング以降の伝統的な心理学史ではあるが、ヴントの心理学と行動主義宣言以降の心理学とは、調べる者と調べられる者が区別されるようになった、という点と、人の〈内部〉は研究対象としない (観察可能な行動だけを研究対象とする) ところが異なる。これまで学んできたあらゆる分野の心理学が行動主義を採用しており、われわれはまだワトソンを乗り越えていないことを改めて学ぶ。(オンデマンド)
第3回 経験から学ぶ (学習心理学)
学習心理学の研究は生理学のパブロフを起源とする古典的条件づけと、ヴントの孫弟子にあたるソーンダイクを祖とする道具的条件づけの2つの条件づけの研究が19世紀の終わりにそれぞれ並行してはじまった。学習心理学はある意味最も心理学らしい領域である。刺激と反応の関係を検討し、行動の予測と制御をすることが心理学の目的だとすれば、それを最も純粋な形で追究しているのが学習心理学である。学習心理学は経験主義哲学に由来する初期の心理学の思想を実証的に研究することに成功した分野であると言える。また、動物や機械とヒトの区別をつけないという心理学の大前提についても主に動物を研究対象としてきた学習心理学を見ればよく分かる。認知心理学では、確かに人の情報処理を見ていたが、学習心理学的視点からすれば、情報処理もすべて「行動 (behaviour)」と言える。確かに認知心理学はこれまで学習心理学で見ていなかった生活体 (生物) の内部を見ることに成功したが、それは科学的心理学の進展に伴い、行動として測定できる対象が増えただけのことなのである。そういう意味で、現在の心理学は認知心理学にしろ、発達心理学にしろ、社会心理学にしろ、すべて測定可能な行動を研究対象としており、学習心理学と共通のパラダイムで研究が行われていると言える。
第4回 情報の入力 (知覚心理学)
知覚心理学、認知心理学、学習心理学などの領域ではいずれも人間内部の情報処理に焦点を当てた研究を行っている。知覚心理学では外界から情報をどのように取り込むか、特に視覚を中心とした研究が行われている。そうして取り込んだ情報をどのように処理し、貯蔵し、貯蔵した情報を取り出すかといった点に着目して研究しているのが認知心理学であり、いったん取り込んだ情報によって将来の行動が変動する点を研究するのがすでに紹介した学習心理学である。ここでは視覚や聴覚からわれわれがどのように情報を取り込んで反応が行われるかを学ぶ。入力された情報はなんらかの形で蓄積されなければ将来の行動に結びつかないが、そこについて学ぶのが次回の「情報の蓄積 (認知心理学: 記憶)」である。
第5回 情報の蓄積 (認知心理学: 記憶)
認知心理学とは、知覚心理学とかなり近い (知覚だけに) 分野であるが、外界から情報をどう取り込むかという問題だけではなく、取り込んだ情報をどのように処理するか、というさらに高次の情報処理に関する研究が行われている。「情報処理」と今書いたが、知覚メカニズムによって取り込んだ外界からの情報をあたかもコンピュータが演算するように処理すると考えるところに認知心理学の特徴がある。1950年代に「サイバネティクス」の影響で情報処理機構としての人間というモデルが構築され、1960年代以降のコンピュータの発展とともにこの分野も広がりを見せている。しかし認知に関する研究は最近行われたものではなく、特に記憶に関する研究は19世紀末から行われている。認知心理学の前半として、ここでは最も早くから始まり、基礎研究、応用研究ともに充実している記憶の研究からスタートする。
第6回 出力としての思考・判断・意思決定 (認知心理学: 意思決定)
前回に続き認知心理学の研究を取り上げる。前回は主に記憶の研究を紹介した。ここでは、記憶された情報に基づいて行われる情報処理について学ぶ。まずこれまで行われてきた思考の研究に注目する。思考についての領域でよく研究されているのが推論である。人間は無限の計算能力を持つコンピュータではないので、推論は必ずしも正確にはできない。間違いの癖に注目することで、われわれの思考のパタンについて検討する。確率判断では特に人が直感に‪従う判断が間違えていることが示されるし、われわれの様々な過ちのカタログを作ったトヴァスキーとカーネマンによる一連のヒューリスティックスの研究は、人が不正確ながらも限られた資源で妥当な判断をくだそうとする認知的倹約家としての側面を明らかにしている。‬‬‬
第7回 行動の一貫性と個人差 (性格心理学)
心理学は基本的に平均の学問である。性格心理学は、それに対して個人差を扱うことのできる分野である。その意味で性格心理学は特異な立場にあるとも言えるが、実際には性格心理学でもやはりほとんどの領域で人間を平均化して見ている。しかし、今後心理学にブレークスルーがあるとすれば個別化の心理学なのかもしれない。少なくとも性格心理学者たちは個人差の問題を扱おうとしてはいる。例えば、オールポートは自己の特性論の中でその人独自の個別特性によって個人差を描き出そうとした。しかし、その後主流となったのは、あらゆる人に共通する共通特性の量的な違いとして性格を記述する特性論であった。平均化と個別化という2つの要請に応えようとする (臨床心理学とも共通する) 性格心理学者のあがきについて学ぶ。
第8回 中間まとめ
第1回から第7回までのまとめを行う。心理学とは行動の法則性を見つけたり、そうした法則を利用してなんらかの問題を解決したりする学問である。冒頭では心理学の基本的な考え方について紹介した。そのうえで、初学者がもつ期待と、その期待がなぜ裏切られるかについて説明した。次に、心理学が哲学から別れて実証的に人間を研究してきた歴史について学んだ。当初研究が盛んに行われた領域として、経験による行動の変容について学ぶ学習心理学、情報の入力やその蓄積、出力について扱う知覚心理学、認知心理学の研究成果を概観した。続いて単に平均としての人だけではなく、個人差を扱う領域として性格心理学を学んだ。これらはいずれも個体内の情報処理過程を扱う領域であった。後半ではこの学習内容を踏まえて、他者との関わりや社会性という観点から人の行動を見ていく。(オンデマンド)
第9回 社会的存在としてのヒト (社会心理学)
社会心理学は性格心理学とは異なり、状況が個人に与える影響を扱う。一貫性論争でも多くの社会心理学者が関わっていたし、性格心理学者が性格を測定してそれによって行動予測を行おうとすれば、社会心理学は実験的に状況を操作し、異なる状況が異なる行動を導く過程を研究してきた。しかし、人の行動は性格と状況の関数だとすれば、片方だけを研究して済むものでもない。性格と行動との通状況的一貫性が低いとしても、そこに状況の効果を入れたモデルを作ることによって行動の予測力は向上するだろう。社会心理学にとって重要なのは、個人が状況を作り、また状況が個人に影響するというマイクロ・マクロ・ダイナミックスの過程である。
第10回 ヒトの個体発生 (発達心理学)
発達心理学は人が生まれてから死ぬまでの個体発生の過程を明らかにする試みである。一方、この後に学ぶ進化心理学では、ヒトという種を生物の進化という系統発生の観点から位置づけようとする試みだと言える。発達心理学は主に乳幼児から児童期を対象とした研究が多いが、もちろん対象とする範囲はそれだけではない。人が死ぬまでの過程も「発達」の枠組みからとらえるものであり、発達には社会的な望ましさや成長という意味は含まれていない (進化が退化を含むのと同様)。ここでは発達という個体発生の仕組みを進化、知覚・思考の発達 (ピアジェを中心に)、言語の発達 (チョムスキー、ピンカーを中心に)、社会性の発達 (愛着理論と心の理論を中心に) という観点から学ぶ。
第11回 ヒトの系統発生 (進化心理学)
進化心理学は性格心理学や社会心理学と同じ基礎心理学の一分野だが、「進化についての」心理学ではなく、「進化論を使った心理学」という意味である。したがって、進化心理学を用いて性格や社会を研究することが想定されている。進化心理学においては、進化論は主に仮説の導出に使われる。進化論から仮説を演繹し、それをそれぞれの領域の研究法に従って検討する。進化心理学ではそういう意味で、心理学全体のメタ理論 (理論を構築するための理論) としての役割を担っていると言える。現時点で、心理学の領域全体にわたって強力なメタ理論は進化心理学以外にはないという意味でも進化心理学を学ぶ意義はある。ここでは、なぜ進化心理学が心理学にとって重要なのかを科学としての心理学という観点からとらえたうえで、進化について特に誤解しそうなポイントを中心に学ぶ。具体的な進化心理学の研究例をとりあげながら、至近要因と究極要因、自然主義的誤謬、トレードオフといった重要な概念を学んでいく。
第12回 心理学の臨床的応用 (臨床心理学)
心理学と言えば臨床心理学をイメージする人が多いかもしれない。臨床心理学は心理学の中で応用分野にあたり、基礎心理学の知見が応用されているが、実際には基礎心理学と根本的に異なる点がある。それは個別化という点である。そういう意味ではすでに学んだ性格心理学も本来個人差の学問なので個別化の心理学と言えなくはないが、多くの場合他の領域と同じように平均的な人間の心理学となっている。ところが臨床心理学は今目の前にいるクライアントの問題を解決するという状況に追い込まれるがゆえに、平均で処理して済ませるわけにもいかない。これが他の主流の心理学領域と大きく異なる点である。臨床心理学においては、まずクライアントを査定し、その上で何らかの心理療法が行われる。この査定と心理療法についてどのようなものがあるかを紹介する。
第13回 心理学はいかに研究するのか? (心理学研究法)
研究法は心理学の最も重要な単元である。これはあらゆる領域に関係するし、心理学にとって最も重要なのは「何に関する研究をするか」ではなく、「どのように研究をするか」という点であり、実験や調査といった心理学の標準的な研究法を採用していること自体が、多くの心理学者にとって自らのアイデンティティともなっている。研究の関心は研究者によっていろいろあるが、その研究手法さえ共通していれば、議論ができる。研究方法が共通しており、議論ができるというのはたいへん重要なことであって、それによって研究者コミュニティが成立し、論文の審査が違いにできる。互いに論文審査を行えるということは、切磋琢磨して学問の質を高めていけるということも意味する。
第14回 心理学研究において注意すべき点 (心理学と研究倫理)
心理学は人間やそれ以外の動物を研究対象としていることから、研究倫理は大きな問題になる。アルバート坊やの実験、ミルグラムの服従実験、ジンバルドーの模擬監獄実験など、過去研究対象者に対して倫理的な問題となりかねない実験が行われてきた。このような倫理上の問題は、ワトソン以降の、研究者と研究対象となる「被験者」が別の存在となった時から必然的に起こるものであった。こうした倫理は研究対象者に対する倫理だが、研究者は研究者コミュニティ (「アカデミア」と言いたがる人もいるが、マカデミアナッツのようで好きになれない。マカデミアナッツはうまいが) やより広範な社会への説明責任もある。最近の心理学の再現可能性問題はこうした倫理についてより積極的な対応が必要であることを示している。
第15回 まとめ
後半部分 (第9回目以降) を中心に、全体を通したまとめを行う。第9回からは社会心理学、発達心理学、進化心理学、臨床心理学と比較的最近発展してきた領域について学んだ。これらの領域は個体内の情報処理ではなく、社会的な存在としての人を前提とした領域である。社会心理学は性格心理学における一貫性論争とつながるし、社会心理学における理論不在の問題は進化心理学において強く批判されてきた。発達心理学では個体差の問題を発達過程の中に位置づけようとする試みと言える。臨床心理学は応用領域といえるが、そこでもやはり重要なのは平均化された人ではなく、個別化された支援であるという点には注意が必要である。第13回目、第14回目では心理学における研究方法について学んだ。
授業外学習の課題 Moodleで配布されるコマシラバス、教材を熟読し、Moodleに提供される課題を行う。毎回の具体的な予習・復習課題はコマシラバスに書いてあるが、予習内容は主に授業教材を読むこと (90分)、復習内容は小テストの準備、小テストへの回答、リアクションペイパーへの返信を読むこと (90分) から構成される。
履修上の注意事項 ブレンド型授業を実施します (Moodleを利用)。
履修者には、本シラバスとは別の詳細なコマシラバス (A4で35ページ程度) と授業教材 (各回A4で20ページ程度) が提供される。提供されるコマシラバスと教材はあわせて25万字程度であり、書籍300ページ分程度となる。
毎回の授業は10分程度のそのコマの解説、20ページ程度のPDF教材資料、小テスト、リアクションペイパーからなる。
授業のデータ (Moodleへのアクセスログ等を含む) を研究に活用することがある。
リアクションペイパーに回答したり、小テストに回答するための端末、通信環境 (スマートフォンで可) が必要。
成績評価の方法・基準 持ち込み不可の期末試験100%で評価する。
テキスト 自作テキストを配布する。
参考文献 サトウタツヤ・渡邊芳之 (2018). 心理学・入門 (改訂版) 有斐閣アルマ
(授業で配布される資料は難易度が若干高いため、この参考文献を入手して事前に予習することをお勧めするが、この参考文献を買うことは必須ではない)
主な関連科目 心理学研究法
オフィスアワー及び
質問・相談への対応
課題のフィードバックや質問、相談等はMoodle (Moodle内で担当者のメイルアドレスも案内する)、https://daihiko.netのブログを用いて対応する。

■カリキュラム情報
所属 ナンバリングコード 適用入学年度 配当年次
人文学部人間関係学科社会学専攻(人間関係学科科目) FHHS21106 2017~2022 1・2・3・4
人文学部人間関係学科社会学専攻(人間関係学科科目) 2023~2023 1・2・3・4
人文学部教育学科(関連学科科目) FHED21106 2017~2023 1・2・3・4
健康科学部心理学科(専門基礎) FHPS13301 2017~2022 1・2・3・4