授業コード 20071600 クラス
科目名 社会福祉論 単位数 2
担当者 中 みちる 履修期 前期授業
カリキュラム *下表参考 配当年次 *下表参考

授業題目 社会福祉学入門 対人支援の理論と実践
Introduction to Social Welfare Studies Theory and Practice of Human Service
授業の概要  なぜ人類は「社会福祉」制度を国家の機能として持つことにしたのか、「社会福祉」はどのような方法や内容で実践されることが望ましいのか、普段はあまり考えたり、議論することがないと思います。一方で、コロナ失業などによる生活困窮者対策、障害のある人の日常生活支援や自立支援、就労対策、高齢者の医療・介護対策、虐待などによる要保護児童対策、子育て家庭の教育・経済支援対策など、現代社会にとって「社会福祉」の必要性は質・量ともに増しているだけでなく多様化、包括化し、社会保障費の増加、消費税や社会保険料の負担となって、皆さんの生活に少なからず影響を与えています。それだけでなく、社会保障制度を含めた社会福祉システムがどのように構築され、提供されるのかは、国家が国民の普遍的ニードをどのように考えているかを表す指標でもあり、社会の構成員である皆さんにとって無視できないテーマになっているはずです。
 本授業では、現在の社会福祉の成り立ちや培われてきた理念の概要を学び、日本の特徴や課題を把握していきます。また、どのように支援することがクライアントの問題解決力の生成に役立つのか、実践的な相談支援(ソーシャルワーク)の理論と技法の基本について学びます。
 今、国際的にも国内的にも「多様性を理解し、自分以外のものと共生する社会」、「持続可能性を考えた社会」の実現が目標とされています。その社会を実現する方法として、またその社会に貢献する機能として、社会福祉がいるのか、いらないのか、いるならどのような枠組みや方法で実践されることが望まれるのか、そのために自分に必要な知識や行動は何か、この授業が皆さんの思考を鍛え、意見を構築する機会になればと思っています。
学習の到達目標 1.社会福祉を考えるための基本的なパラダイム(ものの見方・捉え方)についての基本的な知識を習得できる。
2.現在の社会福祉システムが国家・社会・個人の問題解決に果たす機能と、問題解決を困難にしている状況についての知識を習得できる。
3.これからの社会福祉システムがどのような内容・方法で実践されることが望ましいか考える力を習得することができる。
4.多様な価値観や生き方をする人間同士がどうすれば互いにWellーBeingな生を送れるのか、関心を持ち、実践する態度を習得することができる。
5.協働作業に不可欠な、相手の意見を促し、自分の意見を表明するスキルを習得することができる。
6.対人支援に必要な①システム論、②コミュニケーション論の特徴について概要をつかむことができる。
7.対人支援に必要な、相談手順と質問法などの技法について、基本を理解することができる。
授業計画 第1回 オリエンテーション:履修を希望する人は出席するようにしてください。
 社会福祉学における本授業の位置づけ、授業の概要、進め方、評価、試験など、その他の確認事項についての説明を行う。講師の自己紹介として研究領域について説明する。
 授業を始めるにあたって、現時点での社会福祉に関する知識、社会福祉に関することで感じている疑問や課題などについてのグループディスカッションを行いたいと考えている。
第2回 社会福祉はだれのためか
 社会福祉と聞いて、どんなことをイメージするだろうか。多くは高齢者介護だったり、障害者に対するサービスだったり、生活保護だったり、特定の状況や状態にある人への制度サービスを思い浮かべるのではないだろうか。実は現在の日本の社会福祉制度はいろいろ問題はあるものの、まさに「ゆりかごから墓場まで」を網羅している。社会福祉論を始めるにあたって、まずは社会福祉の定義、対象について、解説を行う。
第3回 「問題」の原因は個人か 社会か
 職場のストレスからうつ病になる人がいる。ギャンブルで多額の借金をする人がいる。誰にも相談せずに出産し子どもを殺める人がいる。対人支援の仕事に就きながら、利用者に暴言を吐いたり、辱めたりする人がいる。そういう話に触れると「どうしてそんなことをするのだろう?」と思うと思う。ただもう一つの疑問が浮かばないだろうか。なぜ何人もの人が同じようなことをするのだろうか? 社会問題の捉え方について、これまでの事例から考えていきたい。
第4回 格差社会ではいけない理由を説明せよ
 ここ数年の間、国際的にも国内的にも「格差」「分断」「社会的排除」が問題の背景や問題そのものとして取り上げられるようになっている。「差別」の問題も20世紀のうちに国際条約や法律、条例など禁止の取り決めが作られてきたが、個人間でも民族間でも国家間でもいまだに解消されておらず、犠牲や軋轢を生んでいる。そうした社会の在り方が社会や個人にもたらす悪影響について、近年、社会学や経済学、心理学など様々な分野からのデータが示されてきた。この回ではそうした資料を材料にして、どういう考え方でこれからの社会の在り方を考えた方がいいのか、一緒に考えていきたい。
第5回 いい/悪いの基準
 価値観や善悪の基準など、私たちの社会や日常生活の中には、法律や条例で定められた行動規範から、校則や家庭内ルール、地域の言い伝えのレベルまで、様々な基準がある。それらは不変的なものではなく、時代や社会背景によって変容してきたし、新たに生まれてきた。一方、一旦生まれた「ルール」や「ラベル」は、人々の意識や行動に大きく作用する。社会福祉とそうした基準の関連について解説し、自身が内包する基準の作用について考えてみたい。
第6回 社会福祉と民主主義
 社会福祉は法律との関連が強く、多くの事業はそれぞれの法律に則って実践されている。ただ法律は常に正しいとは限らないし、現状に合っているとも限らない。正しいと限らない一例としては「旧優生保護法」があり、現状に合っていない一例としては「福祉施設等の職員配置基準」が挙げられる。なぜそうした法律が生まれたり、改正されないまま長い間放置されたりしているのだろう。またどうしたらより「国民の福祉」の実現につながる法制度になるのだろう。社会福祉の制度や事業の成立過程をふり返り、民意と政策の関係を考え、「今後の社会福システム」にとってどのような視点や方法が必要なのか議論したい。
第7回 今後の社会福祉システムの行方
 コロナ禍というかつてない社会状況は、既存の方法を見直したり、別の方法を見出す機会ともなった。これは社会福祉システムにも言える。これまで以上に厳しい経済状況の中、差別、貧困、少子高齢化、児童虐待などの社会問題に対し、私たちはどのように取り組めばいいのか、これまでの学習内容をふまえ具体案を考えたい。
第8回 問題を解決する方法としての「相談」
 今様々な場面で「1人で悩まないで」と相談を促す広告を見る。相談にはどんな機能があるのだろうか? 人に話をすることで何が起こるのだろうか? 相談をして問題が解決するのだろうか? 皆さんはこうした問いにどのように答えるだろうか。
 社会福祉制度の多くは、申請主義をとっており、窓口に行って手続きの相談をしたり、書類を書いたりして始めてサービス受給となる。また保育所などの通所利用施設にしても、児童養護施設などの入所施設にしても、利用者やその家族の相談に応じることは重要な役割の一つである。この回では人が人を支援すること、対人支援について考えていきたい。
第9回 ソーシャルワークの基礎理論(1)システム論
 ソーシャルワークとは、社会生活において生じる問題とされる状況に対して、関係や相互作用の視点から評定し、それらの力動性を使って解決を支援する対人支援の実践方法である。保育ソーシャルワークなど福祉分野で用いられるだけでなく、学校ソーシャルワークなど教育分野、看護ソーシャルワークなど保健・医療分野、更生ソーシャルワークなど司法分野でも、その理論枠や技法が活用されている。ここでは、そうした包括的な対人支援論の基礎となるシステム論(システムズアプローチ)について主な特徴を解説する。また、個人や家族のおかれた状況を整理する方法として、エコマップやジェノグラム、ファミリー・マップの使い方を紹介する。
第10回 ソーシャルワークの基礎理論(2)コミュニケーション論
 どんな対人支援もコミュニケーションを抜きに実践されることはない。さらに言えば、どんな社会活動もコミュニケーションがなければ成立しない。それほどまでに重要なコミュニケーションだが、多くの人がいつの間にか習得し体系的に学んだ覚えはほぼないと思う。ここでは、人間のコミュニケーションの特徴について、対人間の相互作用研究から発表された「人間コミュニケーションの語用論」の「コミュニケーションの試案的公理」を基に解説していく。対人トラブルなど一連のかたまりとなった相互作用を、1つ1つのメッセージに分解し、丹念に読み解いていく枠組みを理解し、次回からの事例分析につなげたいと考えている。
第11回 ソーシャルワークの基礎理論による事例分析(1)
 問題とされる状況や対人トラブルなどは、一連のかたまりとなった場面となって訴えられる。ここでは、その場面を構成する具体的なメッセージを、意味構成と行為が相互に作用する過程として、読み解いていく。
 二者間で交わされたやりとりの記録(逐語録)を使って、ソーシャルワークの基礎理論を基にコミュニケーション分析を行う。
第12回 ソーシャルワークの基礎理論による事例分析(2)
 システム論とコミュニケーション論は、支援者ークライエント間で繰り広げられるコミュニケーションの分析にも活用される。ここでは、支援場面の逐語録を用いて、支援者とクライエントのメッセージの相互作用を分析する。
第13回 ソーシャルワークの基本技法(1)コンプリメントとトラッキング
 11回、12回のコミュニケーション分析により、具体的なメッセージのやりとりを順に吟味していくことで、どのような相互作用が展開していたかを分析することが可能になることを体験した。また、検討材料があることで、どうすればより良かったなど、他の方法を考えるポジションにも立てることが理解できたと思う。では、どうやって話を聞けば具体的なメッセージのやりとりを順に話してもらうことができるのか。ここでは相談の進め方の手順と、具体的なやりとりを聞く方法として「トラッキング」を紹介する。加えて、他人に自分の話をする作業を支える「コンプリメント」についても重要性を解説し、実際に練習をしたいと考えている。
第14回 ソーシャルワークの基本技法(2)質問法
 まずは、相談支援の方法として、安易な助言や提案ではなく、質問を投げかける方法をとる意味について考えたい。その上で循環的質問法(サーキュラークエスチョン)、スケーリングクエスチョン、例外探し、ミラクルクエスチョンなど、主な質問法について解決を行う。練習事例を用いて、質問法を使ってアイデアをクライエントから引き出す練習を行いたいと考えている。
第15回 対人支援(ヒューマンサービス)をどのような職業にすればいいか
 現在、福祉の現場は深刻な人手不足の状況にある。その背景には、勤務体制の厳しさや待遇の悪さ、感情労働という業務特性などから離職者が多いこともあるが、現場に通用する知識や技術をもつ人材育成が追い付いていないことや、長年働いてもキャリアを活かしたステップアップがないという事情がある。そのため、求められることばかりが多い大変な仕事というイメージが求職者の福祉離れに拍車をかけている。一方、人と人とのつながりや「誰かの役に立っている」という実感を得られることから、困難だがやりがいのある仕事であり、社会的必要性も、技術革新による成長の可能性も高い、有望な職域でもある。これは医療や教育など他の対人支援にも共通する側面だろう。ここでは「誰もがWell-beingな生を送れる社会」を支える対人支援従事者に共通する役割や専門性について考えていきたい。
授業外学習の課題 ・事前学習としては、予習課題が出された場合は、指示に従って予習をして来てください。その他、①ニュースを見る、②本・論文・漫画・映画・ドラマ・インターネットなどで知識を拡げる、③授業で紹介する資料や参考文献を読む、ようにしてください。
・事後学習としては、宿題を出すことがあります。その他、①授業内容をふり返ってまとめる、授業で知ったことや考えたことを周りの人に話す、興味関心を持ったことをさらに調べる、②思ったことや考えたことをメモする、リアクションペーパーに書く、③授業内容を自分自身の生活に関連させ、日頃から考える、ようにしてください。
履修上の注意事項 ・第1回の授業で、確認事項について説明するので、出席するようにしてください。
・連続3回以上欠席した場合、欠席した授業の内容を補うために課題を出します。方法や内容は個別に説明を行います。
・高校で学習する現代社会の知識を必要とします。
・授業は原則対面で行います。非対面授業となった場合は、Moodleを使ったオンデマンド形式での授業を予定しています。その場合は、Moodleに音声付きスライド資料、配布資料、課題をアップし、課題提出により出欠を確認します。(形式を変更する場合は、Moodleでアナウンスします。)
・授業では皆さんに問いかけ、考えてもらうことを意識しています。社会福祉の現場ではチームで支援を行うことが多くあります。自分の考えや気づきを意見として他者に伝える練習だと思って、自分なりの考えや経験を言語化し、相手に伝わるような話の内容や言い方の工夫をしていきましょう。
・多様な価値観を学びます。自分がしたことのない経験や想像もつかないような生活環境など、考えたり、理解することが難しい内容もあると思いますが、他の人の暮らしや生活課題、福祉サービスや制度に興味関心を持って、考えてみてください。

・遅刻・早退・欠席の報告・連絡・相談や、課題の内容や提出日時に関する疑問や相談、学習に必要な配慮などは、遠慮せずに伝えてください。相談があればできる対応も、自己判断による行動の後では、対応不可能なこともあります。私も授業内容や方法の変更などはなるべく事前に連絡したり、皆さんに相談したりするようにします。お互いに信頼し合えるような行動をとっていきましょう。
・授業中の私語など、受講のマナーについては、大学の規定に準拠します。
・欠席については、どのような理由であれ、6回以上欠席した学生は評価の対象にはしません。
成績評価の方法・基準 成績は、平常点の評価と期末試験の評価により総合的に行います。

平常点の評価
・授業内の小レポート、リアクションペーパー(60%)
・授業内のグループ・ディスカッションで記入したワークシート(10%)
・予習課題や宿題などの課題レポート(30%)
※平常点は、
・提出期限を守れているか
・設問に対応しているか
・講義内容の理解度、独創的な意見・感想、根拠のある適切な批判、着想の鋭い質問など、記述の内容
により評価します。
・欠席での減点はありませんが、私語など授業マナー違反については減点の対象とします。
・連絡や相談なく提出期限を過ぎた課題は受け取りません。

期末試験の評価(100%)
・問題を理解しているか
・説明には根拠があり、説得力があるか
・論述は、論理的に構成されているか、授業内容が反映・応用されているか
・文章力(文章表現、誤字脱字、読みやすさ)
・資料の取り扱い(引用、参考の明示の仕方)
により評価します。
・試験前に試験範囲や持ち込み資料について説明します。
テキスト 特定のものは使いませんが、必要に応じて紹介させていただきます。
参考文献 <社会福祉全般について>
・「福祉は誰のために ソーシャルワークの未来図」鶴幸一郎・藤田孝典・石川久展・高端正幸 へるす出版 2019年
・「問いからはじめる社会福祉学」圷洋一・金子充・室田信一 有斐閣 2016年
・「ウェルビーイング・タウン 社会福祉入門」岩田正美・上野谷加代子・藤村正之 有斐閣 2013年
・「変わる福祉社会の論点 第3版」増田幸弘・三輪まどか・根岸忠編著 信山社 2021年
など
<社会福祉制度、福祉サービスについて>
・「保健・福祉の手引き」広島市健康福祉局健康福祉・地域共生社会課 2020年度版
など
<ソーシャルワークの方法論について>
・「システムズアプローチ入門」中野真也・吉川悟著 ナカニシヤ出版 2017年
・「人間コミュニケーションの語用論」P・ワツラウィック他 尾川丈一訳 二弊社 1998年
・「ファミリー・ソーシャルワークの理論と技法」大下由美・小川全夫・加茂陽 九州大学出版会 2014年
・「学校におけるブリーフセラピー」宮田敬一編 金剛出版 1998年
など
主な関連科目 子ども家庭支援論、児童家庭福祉論、社会的養護論
オフィスアワー及び
質問・相談への対応
・授業の前後に教室で対応します。毎回十分な時間が取れるとは限らないので、事前にメール(mnaka@alpha.shudo-u.ac.jp)でお知らせいただいたり、相談の上、日時を調整させていただけると助かります。
・リアクションペーパー、課題のフィードバックは、対面では返却時に、非対面ではMoodleのフィードバックで行います。
・リアクションペーパーに書かれた質問には、次回の授業の冒頭で回答するか、内容に応じて個別に回答いたします。

■カリキュラム情報
所属 ナンバリングコード 適用入学年度 配当年次
人文学部教育学科(教職専門科目群) FHED24102 2017~2023 2・3・4