授業コード 70008200 クラス
科目名 特別講義B(行政法) 単位数 2
担当者 横山 信二 履修期 前期授業
カリキュラム *下表参考 配当年次 *下表参考

授業題目 行政法/Administrative Law
授業の概要 行政法は,行政に関する法領域であるから,行政法の対象は統治作用の一つである行政権の行使である。行政とは,統治作用から立法と司法の作用を控除した残余の統治作用である(行政は,立法と司法の統治作用を行えない)。行政は,立法機関(議会)が制定した成文法(法律や条例)が定める事務(権限)を,法律(条例)が定める範囲(法律が定める場合に,法律が定める方法と手続)で行使しなければならない(「法律による行政」の原理)。行政権限の行使が,その根拠である成文法に基づき,行政の適法と違法は裁判所が判断する(行政判例)。つまり,他の法律科目と異なり,行政法は「行政法」という名称の法律ではなく,成文法と行政判例で築かれてきた法領域である。そのような行政法の歴史的な展開に触れながら,行政に関する一般法である行政法総論のキーワードを素材に行政法の基本を学ぶ。
学習の到達目標 行政に関する紛争である行政事件から,当該事件における「事実を認定」し,認定した事実に「適用される法を解釈」し,事件を法的に解決する判断を「説明する」ことができる行政法を学ぶ。具体的な行政事件について「事実の認定」「法適用解釈」,判断を論理的に「説明」できるようになる。
授業計画 第1回 行政法という法領域「甲と乙は,ある家屋の所有権につき争っている。甲がその家屋を使用して飲食店を営業しようとして,飲食店営業の許可を知事に申請した」①公共の安全と秩序の維持を目的とする行政(警察行政),②私人間の紛争への行政の介入(民事不介入の原則)
第2回 行政上の法関係に適用される法(行政法の法源)「公営住宅に入居しているYは,県が家賃を条例に定める家賃に値上げにしたことに不満で,これを供託した(民法494条1項)。3ヵ月後,県は条例に基づいて家賃滞納を理由にYに退去を求めた」①公営住宅の利用関係(行政契約という行政の行為形式),②行政契約に適用される法
第3回 行政法における5つのキーワード⑴「法律による行政」の原理 「Xは,旅館業法3条1項に基づき,知事に旅館経営の許可申請をした。知事は,この旅館の設置場所が市立小学校の敷地の近くにあるので,同条4項に基づき市教育委員会の意見をきいたところ,教育委員会は学校施設の清純な施設環境が害されるという意見だったので,知事は不許可処分にした」①法律の優位原則,②法律の法規創造力原則,③法律の留保原則
第4回 行政法における5つのキーワード(2)行政機関「第3回事案」について,「知事は,市教育委員会の反対意見を付して申請を却下した」①行政機関の意味と種類,②行政主体と行政機関行政機関:行政法における5つのキーワード⑶行政行為「第3回事案」について,「旅館業法3条1項の『許可』の意味」①行政行為の意義,②行政行為の附款(意味と分類)
第5回 行政法における5つのキーワード(4)公定力「第3回事案」について,「知事の不許可処分が違法だったら,Xは旅館業を営むことができるか」①違法でも取り消されるまで有効という効力,②公定力の排除手続
行政法における5つのキーワード(5)抗告訴訟「第3回事案」について,「Xは,知事の不許可の根拠となった教育委員会の意見の取消し求めることができるか」①「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」の意味,②抗告訴訟の訴訟形態
第6回 権限の行使と法 事案⑴「飲食店を営むには,知事の許可が必要である(食品衛生法52条1項)が,飲食店の営業申請は保健所長に提出し,営業許可は保健所長の名でなされる」①権限の代行:事案⑵「Xは開発課長Yに宅地開発の許認可申請をした。Yは,宅地開発指導要綱に基づき,Xに開発協力金213万円の納付を依頼した」②権限行使の根拠,③違法な職務行為による損害の賠償責任
第7回 行政過程と法「Xは,個人タクシー営業免許を申請したが,申請に記載した事項に関して主張・弁明・証拠提出の機会もなく,申請は却下された」①行政行為論と行政過程論,②手続的権利の保障,③行政裁量の適正
第8回 違法な行政行為「Xは、劇物である催涙剤ブロムアセトンの稀溶液を霧状に噴射して相手を開眼不能にさせる護身用商品Sを輸入し販売するために,毒物及び劇物取締法3条2項・4条1項に基づき,厚生労働大臣Yに輸入業の登録申請をした。Yは,同法5条は厚生労働省令の基準に適合しない限り登録を拒否できないにと定めているのに,省令の基準に適合している商品Sは,永続的でないにしろ,動物と人を開眼不能の状態させるとして,同法1条に基づく保健衛生上の見地から,Xの輸入業登録申請を拒否した」【問】Yが登録拒否事由を定めた第5条に拠らず,第1条の「保健衛生上の見地」から登録を拒否したことについて論じよ。
第9回 行政行為の効力「税金を滞納した甲に対し,税務署長乙は滞納処分にした。甲は,この滞納処分を放置していた。乙は,甲から審査請求が出されなかったことから,この滞納処分に基づいて甲所有の土地および建物を差押え,これを公売に付し,丙が売却決定を得た」①審査請求前置と行政行為の効力,②行政上の強制執行
第10回 公務員の不法行為「警視庁巡査Aは,強盗を企図して,拳銃を携帯し制服制帽を着用し,川崎駅に赴いた。駅のホームでBを呼び止め,所持品を預かると称して受け取り,連行しようとしたところ,Bが逃走したので,拳銃で射撃して死亡させた」①民法715条1項(使用者責任)と国家賠償法1条1項,②国家責任の本質(代位責任説と自己責任説),③国賠法1条1項の賠償要件,④過失と違法(違法性一元論と二元論),④組織的過失
第11回 公務員の適法・無過失による「損害」(組織的過失)「予防接種法に基づく種痘の予防接種を受けた生後6ヵ月のXは,軽度の脳炎と脊髄炎を発症し,下半身麻痺による運動障害と知能傷害の後遺症を受けた。そこで,Xおよびその両親は,Xの後遺症は予防接種担当医師が不十分な問診を行うなど予診義務違反によるものだと主張し,甲市と国に対して国家賠償法1条1項と同3条1項に基づく損害賠償を請求した」。【問】予防接種行政は不法行為とはいえず,後遺症は損害ではなく損失というべきである。予防接種法に基づく適法な行政による損失は,憲法29条3項に基づく損失補償として救済されるべきである学説がある。この学説を考慮して,予防接種禍による不利益を損害とし国家賠償法1条1項に基づいてXらが提起した損害賠償請求訴訟について論じなさい。
第12回 道路管理の瑕疵と法「下り坂の左にカーブしているところが工事中で,夜間,その工事現場を通過した乙が運転する車が工事現場の赤色標柱灯を轢き倒し真っ暗になった。その直後に現場を走行してきた運転者Aは,工事中であることに気づかず,車を道路右側崖下に転落させ,助手席にいたBが死亡した」①民法717条1項(土地工作物責任)と国家賠償法2条1項,②「設置管理の瑕疵」の判例の変遷(客観説から折衷説へ),③河川管理の瑕疵
第13回 取消訴訟の原告適格「東京都は,輸送力の増強と踏切廃止による渋滞の解消を目的として,国土交通大臣Yにより小田急小田原線喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間を高架化する都市計画を認可された。事業関連地の土地所有者(4名)および沿線住民であるXら40名(本件事業の関係地域外に居住する3名を含む)は,本件都市計画の認可によって騒音や振動により健康,文化,平穏な環境を享受する権利や都民の健康で快適な生活が害されるとして,本件都市計画事業認可の取消しを求めた」①取消訴訟(主観訴訟)の原告適格(「法律上のの利益を有する者」の意味),②第三者の原告適格,③判例の流れと行政事件訴訟法9条2項の新設
第14回 不作為の違法確認訴訟「A市が定める保育事業助成要綱によれば,同和事業対象地区の住民が子供の教育費補助を申請するときは,B同和連盟会長(当時の会長は甲)の承認を経ることとされていた。同地区の住民Xは,連盟とは別の団体であるC同和協会に属し,また,甲とは不仲の関係でもあった。Xは,本件要綱が定める手続による同和連盟会長甲の承認を経ずに,A市同和対策事業課に子供の教育費補助申請書を提出したが,相当の期間を過ぎても応答がない(不作為)。Xは,申請に対する応答がないので訴訟を提起しようと考えるが,不作為の違法確認訴訟について定める行政事件訴訟法3条5項は「法令に基づき」申請した行政庁の不作為(不作為の審査請求について定める行政服審査法3条も同じ)を対象としている。【問】Xの申請は要綱に基づく申請であり,しかも要綱が定める甲の承認を欠いているが,Xは同和対策事業課の不作為について違法確認訴訟を提起することができるか論じなさい。
第15回 公法上の当事者訴訟「教職員の勤務評定を実施するにあたり,教育長通達により,高校教諭Xは職務等の事項につき自己観察の結果を記載した勤務評定書を校長に提出する職務命令を受けた。Xは,勤務評定書の各項目に記入することは自己の思想・良心を表示することになり,通達は内心の自由を侵害するおそれがあると主張する。しかし,通達に違反すると懲戒その他の不利益処分を受ける」①義務不存在の確認を求める訴訟,②当事者訴訟の活用'不作為の審査請求と不作為の違法確認訴訟/住民訴訟「K市の汚職事件により逮捕された同市幹部職員Aを市長Yは分限免職処分に付し,退職金を支給した。同市の市民Bは,この退職金の支給は公金の違法支出に当たると考え,退職金の返還を求めたい」①違法な分限処分と住民訴訟,②補講:審査請求による違法または不当な行政の是正について
授業外学習の課題 事案の詳細はMoodleに掲載する。授業毎に事案の争点を推測し,各授業ごとに提示している教科書の該当項目および【解説】を参考に,解答をレポートし提出せよ。提出されたレポートはコメントを付してMoodleの返却ファイル(ファイルコメント)に返すので,コメントを参考に解答を検討し,次のレポートに活かすこと。なお,第1回から第5回のレポート提出は締切りを設定せず,第6回から第12回および課題提示(授業計画 第8,11,14回)は定められた期限までに提出すること。
履修上の注意事項 第1回から第5回は,行政法の基礎と全体をとらえる項目である。行政法は行政組織法・行政作用法・行政救済法から構成されている。第1回から第5回は,それら行政法を構成する法領域の基礎的な用語である。これら基礎的用語を通じて行政法の基礎を学ぶ。第1回から第5回についてはくり返して再提出し,行政法の基礎を学び,論述技術を磨くことを勧める。
成績評価の方法・基準 (第6回に掲載した「成績評価の方法・基準」の変更)授業形態の変更にともない,第6回で予定していた中間試験は行わず,第1回から第5回までの中間試験は各回で提出されたレポートで評価する。評価基準は,第1回または第2回で提出されたレポートを約10%(9点),第3回から第5回に提出されたレポートを約10%(各3点×3=9点)とする。なお,第6回から第12回(7件)および課題提示(授業計画 第8,11,14回)で提出されたレポート(3件)の合計10の課題研究または課題提示について提出されたレポートを約80%(第6回から第12回および課題提示(授業計画 第11,14回)は各8点×9,課題提示(授業計画 第8回)の評点10点とし合計82点)で評価する。
テキスト 村上武則監修・横山信二編『新・基本行政法』(有信堂,2016年,3,000円+税,ISBN 978-4-8420-1519-4 C3032)
参考文献 横山信二・廣瀬肇編著『事例で考える行政法』[改訂新版](嵯峨野書院,2019年,3,000円+税,ISBN 978-4-7823-0573-7 C3032)
主な関連科目 地方自治法  法律特論A  法律特論B  憲法  民法
オフィスアワー及び
質問・相談への対応
授業後に,教室または非常勤講師の控室で応じる。
必要に応じてインターネット上で「発表および成績全体の講評」を行う。
添付ファイル 事案(第1回・第2回).pdf 説明 事案(第1回・第2回)
添付ファイル 第1回 意義/第2回 法関係.pdf 説明 第1回 意義/第2回 法関係

■カリキュラム情報
所属 ナンバリングコード 適用入学年度 配当年次
国際コミュニティ学部国際政治学科(学科連携科目) FGGP30707 2018~2020 3・4